ODAWARA ART FOUNDATION

2016年11月07日

2017年2月 スペシャルプレビュー 新作能『利休─江之浦』公演決定 事業

2017年2月、小田原文化財団ファウンダーである杉本博司と榊田倫之が主宰する新素材研究所が改装を手掛けたMOA美術館(熱海市)のリニューアルオープン記念公演として、能『利休─江之浦』を上演いたします。

同じく2017年秋にオープンが予定されている小田原文化財団文化施設「江之浦測候所」建設地にも深い縁のある『利休─江之浦』。杉本博司が企画・監修した新作能にご期待ください。

利休江之浦 考

杉本博司

私は何かに導かれるようにある土地に巡り着いた。その土地の名を江之浦という。相模湾を目の前に望む小さな岬の岡、私はここに庵を結ぼうと思った。しばらくしてこの蜜柑の花咲く岡を、土地の老夫婦からわけてもらうことになった。その老夫婦と話をしていると、「そういえばここから一丁ほど先に天正庵跡がございます」と言う。天正庵と言えば、秀吉北条攻めのおり、千利休に命じて結ばせた茶室の庵号ではないか。私は早速その跡を訪ねてみた。山桜の咲き誇る民家の裏に巨大な平石が据えてある。どう見ても自然の石ではなさそうだ。私はここが天正庵跡であると思い定めて、しばしの時を一人佇んで天正の昔に想いを馳せた。

長陣に及んだ北条攻めの為、秀吉はここに茶室を囲い、武将達と優雅に策を練ったのだ。利休は韮山で切った竹を使い、はじめて竹花入れをここで使ったとされている。この侘び寒村で、限られた道具での取り合わせには一計が必要だったのだろう。高価な古銅や青磁の花入れに替えて、竹筒というのは利休流侘び茶の完成域と言ってもよいだろう。そんな大胆な試みが太閤を前にここでなされたのかとしばし感慨に耽った。そう言えばたしか利休作のこの竹花入れは、大徳寺の古溪宗陳に利休より送られ、銘「おだはら」として益田鈍翁が所持していた筈だと思い当たった。私はこの「おだはら」を見てみたいと思った。この花入れは益田家から今は他家へと伝承されている。私は面識のあることを幸いに、この家を訪ねた。三重の箱に大切に納められた名器は、なかなかその尊顔を拝すまでに時間が必要だった。各々の箱には箱書きがあり添え状があり、極めなども付いている。その伝来を読み解きながら、ついに本尊が現われた。一重切れで少し下膨れで小腹が出ているように見える、銘「おだはら」の由縁である。利休が竹筒の節と形のバランスを見る感性、その微妙が妙なのだ。私はその繊細ながら堂々とした姿に深く感銘を覚えた。

私はこの「腹のぼてたような」と利休が言った花入れを見て思い付いたことがあった、この話は能になるのではないかと。さっそく私は新作能「おだはら」のプロットを考え始めた。

前シテ  炭焼きの竹守 (化身)

後シテ  千利休の霊

ワキ   旅の僧

ワキツレ 茶頭

都方から高僧が相模の国を訪ねる。僧は茶頭を連れている。そこで出会った土地の竹守の老人に野点の一服を点じふるまう。老人はその茶の味わいに昔へと想いを馳せ、天正庵の故事を述べる。日も暮れ、炭焼き小屋での一夜の宿。やがて後シテが花入れ「おだはら」を持って登場する。シテは値一国の砧青磁花入れのかわりに、朝取りの竹花入れを太閤殿下に披露したのが太閤の勘気に触れ、切腹を申し使った次第、その恨みを述べて舞始める。夜明けと共に後シテは消え、あとには松風の音が吹き渡るとおもいきや、それは釜の湯がたぎる音であった。

私はこの江之浦の地に、庵とともに古様な能舞台をも作ることにした。現場能とでも言うのだろうか、故事来歴の場、そのすぐ隣でシテの魂を呼び寄せようと企んだのだ。それも利休その人が手ずから削った花入れを用意して。さらに望みを申すなら、茶頭には直系の御血筋、千宗屋氏にお頼みしよう、こうなっては、シテ利休の霊は現われざるを得ない筈だ。

この構想をもとに、私は謡本の執筆を馬場あき子先生にお願いすることにした。齢が恐れをなして退散したかと思う程、意気軒昂、元気溌剌の先生の申すには、ここはワキは利休の弟子、細川忠興とするべきとのご意見。忠興が晩年、隠居して三齋となり、ゆかりの天正庵跡を通りかかる、という設定はなるほどすっと腑に落ちる。こうして謡本も完成の日の目を見るに至ったのでございます。

千宗屋氏にもご出演の快諾を得て、はたと困ったことがありました。竹花入れ「おだはら」は希代の名品でございます。よほどの茶事の折り、 茶席の床の薄闇の中で眼にしみる、というのが本来の使い道でございます。他家に伝わる名品を舞台になどとんでもないことでございます。しかし骨董というものはいつも不思議におもうのですが、不意に因縁が襲ってくる、引きが来るとでも申しましょうか、悶々とするある日、宗屋氏からお話があり、こんな話がうちに来ましたと一葉の写真をお見せ下さるのを見ると、なんと利休作竹花入れ、宗旦の極め、萬野美術館旧蔵とのこと。由あって内々に売りに出されることになったとのこと、これぞ利休霊のお導きならずして、なんであろうや。私は「これを使いなはれ」と囁く声を聞いたのでございます。さらなる幸いは、この花入れには銘がいまだに付けられておらず、私は僭越ながらこの花入れに銘「江之浦」と名付け、無事に当家にお越しいただくことにあいなった次第でございます。つきましては新作能の謡本は、「おだはら」改め、能「利休─江之浦」と題される次第、ここに段取りはつつがなく整ったのでございます。

私の瞼の裏に浮かんだ利休の姿は、こうして今、瞼の外に幻となって現われようとしているのでございます。

<公演概要>
公演タイトル:スペシャルプレビュー 新作能「利休─江之浦」

公演日程:
2017年2月12日(日)
開演時間:14時
会場:MOA美術館能楽堂
(〒413-8511 静岡県熱海市桃山町26-2 電話0557-84-2500)

企画・監修:杉本博司
作者:馬場あき子
演出:浅見真州
囃子作調:亀井広忠
茶の湯監修:千宗屋

主催:公益財団法人小田原文化財団
企画・制作:公益財団法人小田原文化財団/ジャパン・ソサエティー
協力:MOA美術館
<チケット情報>
チケット発売日:2016年11月12日(土)一般発売
チケット取り扱い:ぴあ
0570-02-9999(音声自動応答 Pコード455-025)
http://pia.jp/t/(PC・携帯・スマートフォン共通)
チケットぴあ、セブン-イレブン、サークルK・サンクス各店舗で直接購入可能

※チケット発売詳細については、後日小田原文化財団公式HPで発表いたします。

チケット料金:
A席 12,000円
B席 10,000円
C席 8,000円
※全席指定
※公演チケットでMOA美術館内もご覧いただけます。

『利休─江之浦』出演者:

利休
浅見真州

細川忠興
観世銕之丞

忠興ノ従者
柴田稔
馬場正基
北浪貴裕
長山桂三
谷本健吾
観世淳夫


石田幸雄
千宗屋

笛 竹市学
小鼓 鵜澤洋太郎
大鼓 亀井広忠
太鼓 大川典良

後見
片山九郎右衛門
清水寛二
西村高夫

地謡
浅井文義
岡久広
小早川修
浅見慈一
武田友志
武田文志
武田宗典
安藤貴康