皆様、明けましておめでとう御座います。
昨年は待ちに待たれた「江之浦測候所」の書籍が刊行されました。日本語版と英語版があります。開館以来8年間の景色の移り変わりが、そして時の移り変わりが、彷彿として現れては消えてゆきます。
今年は私にとって大きな展覧会が目白押しです。南仏のスーラージュ美術館から始まり、シンガポール国立美術館。そして6月には東京国立近代美術館で杉本博司「絶滅写真」が始まります。私の写真作品だけを見せる展覧会としては2005年の森美術館以来21年ぶりの回顧展となります。私は写真家だったのです。
幕末、この国にフォトグラフィーが紹介された時、人々は自身の姿を写されてみてびっくり仰天したのです。思い描いていた自身の姿との違和感。心が機械に凌駕されたような迫真感。この摩訶不思議な自動絵画作製装置を「写真」と名付けたのです。
写真発明から170 年ほどの間、写真には「証拠能力」がありました。写るものは真だったのです。その「写真」は今、絶滅を迎えています。デジタル写真は「写虚」となり「証拠能力」を失いました。私は生き残った最後の「銀塩写真家」として「写真」のお葬式を国立美術館で執り行う所存です。入館料はお花代です。
死因は真を写せなくなった事による心像発作でした。この世の中から信用のできるものが、一つ、また一つと消えていきます。
令和八年正月
杉本博司