ODAWARA ART FOUNDATION

2025年10月03日

大友良英コメント 「MUSICS あるいは複数の音楽たち その3」に寄せて 事業

2025年11月2日(日)・3日(月・祝)に開催される、音楽家・大友良英によるパフォーマンス「MUSICS あるいは複数の音楽たち その3」に向けて、大友良英よりコメントが寄せられました。

ぜひご覧ください。


アジアン・ミーティング20周年

大友良英

今から20年前の2005年9月23日から25日にかけて、韓国と香港から8人のミュージシャンを呼んで新宿PITINNで第一回の「アジアン・ミーティング・フェスティバル」が行われました。日本からも10人を超えるミュージシャンが参加し、昼夜5コンサートを行っています。同じ年に中国で反日デモが行われ、上海の日本料理店が襲撃されたニュースがきっかけでした。中国や韓国のミュージシャンたちとの交流がはじまった頃だったこともあり、とてもショックだったのを今でも覚えています。
当時のブログを引用します。
「(前略)〜〜何人もの友人のいる中国で反日デモがおこっているのは、私にとってはとても悲しいし、どうにかしたいなと、本当に素朴に思ってしまう。素朴な民族のククリで憎しみ合うような状況を今後絶対につくらないためにも。
具体的にオレにできることを、実はもう少し前から準備をしている。多分9月になると思うけど、東京のどこかで、中国語圏、韓国語圏といった近隣諸国で、僕等にちかいような、ノイズなり音響なり、あるいは風変わりなロックなりをやっているミュージシャン何人かを呼んで小さなフェスをやろうと思っているのだ。
〜〜〜中略〜〜〜
もちろんそんな小さなことで今の民族間の問題が解決するとはまったく思っていないし、第一そのためにこうしたフェスをやるわけでもない。理由はあくまでも音楽的な話なのだけど、どんなことであれ、そうした無数の無名の人たちの日常の生き方、営みの中からしか歴史は変えられないと思うからだ(中略)現時点ではなんの資金のあてもありませんが・・・」

全文は下記WEBサイトで読めます。
http://www.japanimprov.com/yotomo/yotomoj/essays/hannichi.html

その後、紆余曲折をへながらもこのフェスティバルは続き、2014年から国際交流基金の援助も受けてシンガポールのユエン・チーワイや、当時香港在住、今はアメリカと日本、台湾を行き来するDJ-Sniffにディレクターに入ってもらい、パンデミックが始まるまでの間、アジア各国で、何十人ものミュージシャンやスタッフの手により、いくつものフェスが開かれてきました。2005年のフェスの時から考えたら夢のような展開でした。
大きな歴史の動きは決してわたしの望むような方向に向かっていないように思えることもしばしばですが、でも、日本を含むアジア各国から数多くの若いミュージシャンたちが出現し、彼ら彼女らが様々な形で草の根的に繋がっていってる様子を見るのは感動的だったし、それが未来への希望、そんなふうに思っていました。そんな中始まってしまったのがパンデミックでした。アジアのミュージシャンの交流の時計の針が戻されたような気持ちでした。
「せっかくあそこまでいったのに」
パンデミックが明けた2023年から再び、わたしは韓国、シンガポール、マレーシア、ベトナム、中国、台湾、香港、インドネシアとアジア各地を回って、ミュージシャンとの交流を個人的に再開しました。2010年代のように助成を受けた大きなフェスをやるのは難しいかもしれませんが、初心に帰って、個人で動いて再びフェスをやることは可能かもしれない。なにより20年前と違うのは、すでに人脈もあり、協力してくれる人たちや組織もあることです。
今回は江之浦測候所を運営する小田原文化財団と新宿ピットインの全面的なバックアップのもと、これまで協力してくれたFMNサウンドファクトリーや、Little stone Records、P-hourほか多くのみなさんの手弁当の協力もあって、パンデミック以降、最初のアジアン・ミーティング・フェスティバルが実現します。しかも20周年記念のフェスティバルです。

11月2〜3日の江之浦測候所での2日間は、これまでやってきたアジアン・ミーティングを象徴するかのように、ひろい庭園の各所で、夕暮れまでの3時間の間、即興的にさまざまな出会いと共演が同時多発的に起こります。あらかじめ計画されたものではなく、参加ミュージシャンたちが江之浦測候所という稀有な空間に反応しながら、その場で状況を作り出していく2日間です。当然2日間の内容は、全く異なるものになります。参加者は皆さんの足で、会場で起こるさまざまなハプニングや出来事、音楽を探し発見する旅になります。
杉本博司が設計した江之浦測候所の壮大なランドスケープと、日本を含むアジア各国のアーティストたちとの予期せぬ邂逅をどうかお楽しみください。
また各日シークレットゲストの出演も予定しております。こちらもお楽しみに。


参考記事
JAZZ TOKYO「大友良英によるアジアン・ネットワーキングの軌跡 / 横井一江」
https://jazztokyo.org/interviews/post-109331/